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イベントレポート:SAP NOW AI Tokyo & JSUG Conference|SAP導入事例と生成AI最新トレンド

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SAP NOW AI Tokyo & JSUG Conference参加レポート

はじめに

2025年8月、KYOSOの小田と房は、SAPジャパン主催の「SAP NOW AI Tokyo & JSUG Conference」に参加しました。私たちはSAP BTP(Business Technology Platform)を中心に、お客様へSAP関連の開発支援を提供しています。日々進化するITの中でも、本イベントは特に「AI」に焦点を当てていました。クラウドERP、財務・支出管理、サプライチェーンマネジメント、人事、カスタマーエクスペリエンスといった幅広い領域で、AIを活用したSAPの最新ソリューションや導入事例が紹介され、KYOSOとしても強い関心を持つ内容ばかりでした。中でも、私たちが最も得意とするSAP BTPに関しては、AIを中心とした新機能や活用事例が数多く発表され、大変興味深い内容でした。最新技術を学ぶ絶好の機会であると同時に、SAPの導入・保守に携わる多くの企業様との貴重な交流の場ともなり、非常に有意義な時間となりました。本記事では、このイベントで得られた知見や現地の様子をレポートします。

会場の様子(グランドプリンスホテル新高輪)

当日の会場の様子を写真と共にご紹介します。なお、セッション中の撮影は禁止されていたため、会場の雰囲気をお伝えする写真が中心となります。

会場となったグランドプリンスホテル新高輪は、品川駅(高輪口)から徒歩5分ほどの好立地です。受付前から参加者の行列ができており、イベントの盛況ぶりがうかがえました。

会場に到着し、大広間の前にはSAP社のロールアップバナーがありました。とてもスタイリッシュですね!

展示エリアでは、SAP BTPやJSUGのブースが設けられ、実際に導入や運用を担当されている企業担当者と交流することができました。こうした場は、最新情報を得るだけでなく、同業のSIerやエンジニア同士で課題感を共有できる貴重な機会です。

聴講した13のセッション

本イベントは同時開催される複数のセッションから聴講したいセッションを選ぶ形式でした。今回聴講したセッションは以下の13のセッションです。

  • 越える、その先へ ~AIとデータが拓く未来~
  • 持続可能な成長を実現するビジネス変革 ~未来を切り拓くITと経営~
  • 事例でご紹介:SaaS型ERPは企業経営に何をもたらすか
  • SAPシステム領域におけるAI活用へ:実現に向けたガイド
  • SAP Concurをプラットフォームとした業務改革
  • 生成AIを活用した開発自動化とナレッジ共有効率化の事例
  • AWS最新活用!現場を変える生成AI
  • 中堅製造業が挑んだグローバル経営基盤の再構築 ~クラウド活用と変革の舞台裏~
  • SAP社へ要望を挙げるエスカレーション活動について
  • Cloud時代のComposable ERPの実現モデル解説
  • TOPPANグループが挑む システム基盤のモダナイゼーション
  • センサーデータからの製品カーボンフットプリント算定で製造業のGX経営を推進
  • デジタルによる官民共創の被災者支援プロジェクト ~能登半島地震からの学び~

どれも興味深い内容でしたが、本記事ではSAPセッションに絞って4つご紹介させていただきます。その他はスポンサーセッションとなりますので、ご紹介は控えさせていただきます。

越える、その先へ ~AIとデータが拓く未来~

当セッションでは、日本のホワイトカラーの生産性向上を目的としたAIとデータを活用した働き方が紹介されました。AIをビジネスに活用するには、「業務プロセスへの組込み」「データの正確性」「即時利用可能性」の3点が不可欠であり、これらを可能にするための基盤構築が重要だと述べられました。AIアシスタントの導入により、会計や人事などの分野で大幅な生産性向上が期待されるとのことで、今後は「AI First」の方針のもと、パートナー企業との連携を強化していく方針が示されました。

ChatGPTの登場以降、AIは「コパイロット」として業務現場に急速に普及しています。この潮流の中で、SAPも独自のAIコパイロット「Joule」を発表し、基幹業務システムの中で自然言語による業務操作が可能になりました。当セッションでも、この「Joule」を軸としたAI戦略が中心に語られました。Jouleが基幹業務に深く組み込まれることの有用性を示すと同時に、その前提として正確なビジネスデータを供給する「SAP Business Data Cloud」の重要性も強調されました。私たちはSAP BTPの専門家として、このデータ基盤とSAP BTPを連携させることで、お客様に新たな価値を提供できる可能性を感じています。そのため、今後はSAP BTPの領域に留まらず、SAP Business Data Cloudへの理解を深め、その活用方法の習熟に努めていく必要があると強く感じました。

持続可能な成長を実現するビジネス変革 ~未来を切り拓くITと経営~

当セッションは、3企業による合同セッションでDXとAI活用による持続可能なビジネス変革について説明されました。各社の新システム導入時のメリットや苦難が紹介されました。今後は複数のAIが協調して動作する「マルチAIエージェント」に発展することが進化の方向性として示されました。

このセッションで最も印象に残っているのは「IT部門でない社員個人の好奇心をどう保つかが課題になる」という点です。私たちの仕事は、業務を改善するシステムを構築しお客様にご提供することだと思っています。しかし、システムが完成してもそれを利用するはずの方々が「新しいシステムのことはよくわからないからIT部門に任せます」といった状態では結局旧態依然で業務が改善したとは言い切れません。操作説明や説明書はシステムの動作には影響がない作業ながら、この問題に直接かかわるものなのでなるべく簡潔にわかりやすく作成することを心掛けなければいけないなと感じました。

SAP Concurをプラットフォームとした業務改革

当セッションでは、複数の経理システムをSAP Concurで統合し、業務の標準化・ペーパーレス化・コンプライアンス強化を実現した事例が紹介されました。これにより、業務の標準化やペーパーレス化を実現し、経費精算や請求書処理を外部委託することで業務効率化とコンプライアンス強化を達成しました。今後はAIを活用し、経費精算の審査などを自動化する計画だそうです。

複数の経理システムを一本化・業務の標準化・ペーパーレス化、と聞くとオーソドックスなSaaS導入に聞こえますが、やはり様々な工夫があったそうです。特に印象的だったのが、各部門がお互いの業務フローを理解することでデータや処理作業に共通した部分がないかを見出すことで、よりシンプルなシステムに近づけることができるという点です。部門ごとの作業を単にシステムに置き換えるだけでなく、会社全体で重複する冗長なデータや作業をひとまとめにしてしまおうというのはなかなか骨の折れる作業だと思います。KYOSOが日頃行っている 要件定義や設計段階での丁寧なヒアリング の重要性を再認識できる内容でした。

中堅製造業が挑んだグローバル経営基盤の再構築 ~クラウド活用と変革の舞台裏~

当セッションでは、企業がグループ全体の最適化を目指すためクラウドERPを導入したプロジェクト事例が紹介されました。このプロジェクトでは、若手社員の巻き込みに苦労しつつもプロジェクトを推進し、稼働後は標準プロセスの維持発展とデータ利活用が重要だと述べられました。

このプロジェクトではSAP社の様々なサービス(サポートなど)を活用したり、JSUGのユーザー会に出席したりして、システムの構築に必要な情報を集めたとのことでした。今後自分が対応に当たるもので業務システムが大きく標準から外れているものがあった場合、各種ドキュメントやインターネット上の情報では対応できない状況に遭遇するかもしれません。その際はSAP社やJSUGのユーザー会に頼ることを覚えておこうと思います。また、このセッションではありませんがJSUG経由でSAPに機能改善要望を提出したりもできるそうなので、そちらも頭の片隅に置いておくと今後役に立つことがあるかもしれないと考えています。

デジタルによる官民共創の被災者支援プロジェクト ~能登半島地震からの学び~

当セッションでは、能登半島地震を契機とした被災者支援アプリの開発事例も紹介されました。他のセッションとはかなり毛色が違い、自治体が利用するの大規模災害時の被災者支援を目的としたシステム開発について説明されました。災害当初の課題であった広域避難者の情報把握に対し、県と関係機関が連携して避難所情報を集約するアプリや、その被災者情報を一元管理するデータベースを迅速に構築したそうです。このシステムにより、支援機関との情報共有を円滑にし、個々の被災者の情報に応じた支援体制を構築していることが示されました。

紹介されたシステムは恒久的に使用するものではなく、緊急対応のため迅速に開発することが目的だったそうです。これはSAPが標準化がなされた上である程度の柔軟性を持っているからこそ可能であると考えました。災害のため数日での対応が要求される事態でユーザーが完全に利用できるまでとはいかず、保守用の機能を利用して手動で補った部分もあるそうですが、中核部分を迅速に開発できる点はERP独特の強みであることを再認識しました。

参加を通じて感じたこと

小田の視点:SAP導入は「業務プロセス改善の契機」

このようなイベントに参加したのは今回が初めてでしたが、SAPを採用した様々な企業の具体的な解決策を聴講することができ、非常に有意義な時間を過ごすことができました。聴講した中で特に強く感じられたのは、システムが業務プロセスに合わせて作られるのみではなく、システムの更新に伴って業務プロセスを見直す事例が多かったことです。システムを導入することは、ペーパーレス化など単に業務プロセスをデジタル化するだけではなく、業務全般を標準化し効率化する機会になるということを改めて理解しました。また各セッションで語られたSAP採用の理由から、データの一元管理による標準化・可視化、システム更新にかかる費用や工数削減による効率化をといった強みが業務プロセスの改善に適しているということを認識しました。イベントの開催は8月で外は非常に暑く快適とは言えない気温でしたが、会場は受付が間に合わないほどの盛況ぶりで、業界のSAPへの関心度がうかがえました。自分もその一員としてよりよいものを提供できるよう精進したいと思います。

房の視点:SAP Business AIが「現場で使える道具」に進化

今回のイベントに参加して一番感じたのは、「SAP Business AI」が日々の業務に直結するリアルな道具へと進化を遂げたという事実です。AIアシスタント「Joule」のデモでは、自然な言葉で指示するだけで複雑な業務プロセスが動いていく様子を目の当たりにし、SF映画で見たような未来がすぐそこまで来ていることを実感させられました。そして、そのAI戦略の心臓部を担うのが、我々が専門とするSAP BTPであると再確認できたことも大きな収穫でした。Generative AI Hubのような機能は、お客様ごとの課題に合わせてAIソリューションを開発・提供する我々のビジネスにとって、強力な追い風となります。さらに、すべてのセッションで繰り返し語られたのは「データの重要性」です。AIの成功は正しいデータ基盤があってこそ成り立つものであり、現場のリアルな苦労話も聞けたことで、机上の空論ではない実践的な学びが得られたと感じています。イベント会場の熱気とそこで得た多くの知見を胸に、お客様のビジネス変革をより力強くサポートしていきたい。AIという大きな変革の波を乗りこなすためのベストパートナーとして、我々自身も進化し続けなければと、改めて身が引き締まる思いです。

投稿者プロフィール

小田 湧太
小田 湧太
ビジネスソリューション事業部に所属。バックエンドを中心にさまざまなプロジェクトに携わってきたが、最近SAP関連の開発業務に携わることとなり、SAPに関する情報をがむしゃらに収集中。
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