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【SAP BTP】SAP Fioriの個別設定は引き継げる?オンプレからSAP BTP Build Work Zoneへの移行課題と代替アプローチ

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はじめに

SAP S/4HANAのオンプレミス環境からSAP Build Work Zone環境へ移行する際、課題の一つとなるのが「ユーザごとに変更可能な個別設定」の扱いです。オンプレミス環境でユーザが設定したパーソナライズデータを、そのまま新しいSAP BTP Build Work Zone環境へ「引き継ぎ」を検討されるケースも存在するかと思います。

しかし、実際のプロジェクトで調査を行った結果、基本的な機能は共通しているものの、両環境ではアーキテクチャや設定の管理メカニズムが異なるため、ユーザの個別設定をそのまま引き継ぐことは不可能であることがわかりました。では、引き継ぎができない場合、移行後の運用をどのように設計すべきか。
本記事では、単純な設定差異の整理にとどまらず、実プロジェクトでどのような代替アプローチ(システム側での表示制御など)をとり、運用を統制したのかという実践的な方法論まで踏み込んで共有します。

本記事は、以下のような方に読んでいただきたい内容です。

・SAP S/4HANAのオンプレミス環境からSAP BTPへの移行プロジェクトに携わるエンジニアの方
・Fioriの個別設定の引継ぎや運用設計に悩んでいるシステム管理者の方

前提条件
本記事における解説は、以下の環境およびバージョンに基づいています。まずはご自身の環境との差異をご確認ください。

・オンプレミス環境: SAP S/4HANA FOUNDATION 2020 (SAPUI5 バージョン: 1.84.56)
・SAP BTP環境: SAP BTP Build Work Zone, standard(SAPUI5 バージョン: 1.149.1)


1.設定項目の違いとシステム側での制御方法

移行を前提とした運用設計を行うにあたり、まずはオンプレミス環境とSAP BTP Build Work Zone間で、どのような設定項目の差異があるのかを調査・整理しました。

■ 設定項目別の対応状況および制御可否

以下の表は、Fioriラウンチパッドの「設定」画面において、実務影響の大きい主要な項目のみを抜粋したものです。SAP BTP Build Work Zoneならではの新しい項目が存在します。

※1:オンプレミス環境においては、トランザクションコード(/n/UI2/FLP_SYS_CONF/n/UI2/FLP_CUS_CONF)にてデフォルト設定の管理が可能です。
※2:SAP BTP Build Work Zoneでは、サイト設定にて設定が可能です。

※1 オンプレミスのみ可
※2 SAP BTP BWZのみ可
設定項目 オンプレミス SAP BTP BWZ 管理者側
の制御
詳細
表示 ・ラウンチパッドの表示テーマと表示設定を変更可能
  表示テーマ UIテーマの設定が可能
  表示設定 可※1 設定項目
・タッチ入力に最適化 (間隔の拡大)、
・タイルサイズの調整 (デスクトップのみ)
  タイル表示 可※2 設定項目
・ソースシステム名をタイルに表示(アプリの連携元をタイルに表示)
領域 ・業務単位のタブによる情報整理。
・管理者定義の枠内で配置最適化が可能
※BTPはサイト設定のビューモードが相当する
ホームページ 設定項目
・すべてのコンテンツを表示 (自動スクロール形式)
・1グループごとに表示 (ページ切り替え形式)
※オンプレミスでは廃止予定の設定
ユーザアクティビティ ・使用項目の自動追跡・記録を行う。
・アプリなどを開いた際の履歴が記録される
 アプリの追跡の設定 ・使用履歴の追跡・記録が可能
 履歴をクリア 不可 設定項目
・履歴をクリア (履歴データを一括削除)
通知 通知の受信可否と高優先度通知のポップアップ表示
 通知設定 可※1 ・通知の受信が可能
 高優先度の設定 不可 ・重要度が高い順に並べ替えることが可能
言語および地域 言語およびデータ書式の変更が可能
 言語および地域 形式:ブラウザの言語・日本語・英語・ドイツ語
 日付書式 不可 形式:yyyy/MM/dd
 時間書式 不可 形式:12時間/24時間
 タイムゾーン 不可 形式:Asia/Tokyo
 日付 不可 形式:Apr 10, 2026
 時刻 不可 形式:12時間
 数値書式 不可 形式:1.000.2
 作業週 不可 形式:Monday – Friday
SAP Mobile Start アプリケーション 可※2 モバイル端末との単一連携を行うための機能のため、オンプレミスには存在しない

基本的な機能は両環境で共通しています。しかし、オンプレミス環境には存在しない「タイル表示」がSAP BTP Build Work Zoneで追加されていたりと、SAP BTP Build Work Zone独自の仕様が見受けられます。とはいえ、表の通り項目において、システム管理者側で機能を無効化(非表示・非活性化)するなどの制御が可能であることが分かりました。

2. 移行後の運用設計:管理者側での制御

第1章で確認した通り、システムのアーキテクチャや管理メカニズムが異なるため、個別設定をそのまま引き継ぐことは不可能です。

そこで今回のプロジェクトでは、「引き継げないことを前提に、オンプレミス環境と同じ運用をできるだけSAP BTP Build Work Zone上で再現する」という方針をとりました。
SAP BTP Build Work Zoneでは、ユーザーに選択肢を残すかどうかも含めて、管理者側のサイト設定が起点になります。そのため、まずは項目ごとにどこで何を設定できるのかを整理しました。

設定項目 設定方法(SAP BTP Build Work Zone)
表示
 表示テーマ サイト設定>ユーザ向け機能>テーマ選択
はいの場合
任意のテーマを選択可能
いいえの場合
デフォルトのみ
 タイル表示 サイト設定>表示>タイルのソースシステム名表示
はいの場合
出典元の表示を選択可能
いいえの場合
出典元の表示を選択不可能
領域 サイト設定>表示>ビューモード-スペースおよびページ
領域形式の表示が可能
ホームページ サイト設定>表示>ビューモード-グループ
ホームページ項目の表示が可能
ユーザアクティビティ サイト設定>ユーザ向け機能>頻度の高い最近のアクティビティ
はいの場合
履歴が表示される
いいえの場合
履歴が非表示になる
言語および地域 サイト設定>ユーザ向け機能>言語選択
はいの場合
ユーザが任意の言語を選択できる
いいえの場合
ブラウザの優先言語が設定される
通知 サイト設定>表示>通知表示
はいの場合
通知が表示される
いいえの場合
通知が非表示になる
SAP Mobile Start アプリケーション サイトマネージャー>SAP Mobile Start アプリケーション

■ 実務における運用例:オンプレと同じ運用を維持できる項目

上表の項目のうち、SAP BTP Build Work Zone側の設定を選ぶことでオンプレミスと同じように「ユーザー個人が選べる」状態を維持できるものが4項目あります。移行前後で何がどう変わるかを整理します。

設定項目 移行前(オンプレミス) 移行後(SAP BTP Build Work Zone)
表示テーマ ユーザーごとに好みのテーマを選択 「テーマ選択」を「はい」にすることで、オンプレミスと同じくユーザーが任意のテーマを選択可能
ホームページ ユーザーが「すべてのコンテンツを表示」と「1グループごとに表示」を選択 「ビューモード」で「グループ」を選べば、オンプレミスのホームページと同じくユーザーごとに表示方法を選択可能
言語および地域 ユーザーが自分の使用言語を個別に選択 「言語選択」を「はい」にすることで、オンプレミスと同じくユーザーごとに任意の言語を選択可能
ユーザアクティビティ ユーザーが自分の利用履歴を追跡するかどうかを選択 機能を有効にすれば、オンプレミスと同じくユーザーが追跡の有無を選択可能

以下、それぞれの運用モデルを具体的に見ていきます。

例1)「表示テーマ」の扱い

移行前:ユーザーごとに好みのテーマを選び、画面の見た目を変更していたケース。
オンプレミス環境の設定画面です。「表示」から、ユーザー自身が使用するテーマを選択できます。

移行後:SAP BTP Build Work Zoneでは、テーマ選択を「はい」にすることでユーザ自身でUIテーマを設定することが可能です。また、テーママネージャーにてデフォルトを指定し、テーマ選択を「いいえ」にすることで、全ユーザーの画面を統一できます。

テーマ選択:はいの場合

テーマ選択を「はい」にすると、下記のようにユーザー側でテーマを選択できます。

テーマ選択:いいえの場合

「いいえ」にすると、下記のようにユーザー側ではテーマが固定され、変更できなくなります。

例2)「ホームページ」の表示形式

移行前:ユーザーが「すべてのコンテンツを表示」と「1グループごとに表示」を選べる「ホームページ」表示があるケース。
オンプレミス環境の設定画面です。「ホームページ」から、「すべてのコンテンツを表示」と「1グループずつ表示」を選択できます。

移行後:SAP BTP Build Work Zoneでは、サイト設定の「ビューモード」を「グループ」形式にすることで、オンプレミス環境の「ホームページ」と同じくユーザーごとに表示方法を選択できます。

サイト設定>ビューモード<グループ

ビューモードを「グループ」にすると、下記のようにオンプレミス環境と同じホームページの設定項目が表示され、ユーザー自身が表示方法を選択できます。

例3)「言語および地域」の選択

移行前:オンプレミスでは、ユーザーが設定画面から自分の使用言語を個別に選べていたケース。
オンプレミス環境の設定画面です。「言語および地域」から、ユーザー自身が使用言語を選択できます。

移行後:SAP BTP Build Work Zoneでは、サイト設定の「言語選択」を「はい」にすることで、オンプレミス環境と同じくユーザーごとに任意の言語を選択できます。また、「いいえ」にすることで、ブラウザの優先言語が適用されます。

言語選択:はいの場合

言語選択を「はい」にすると、下記のようにユーザー側で使用言語を選択できます。

言語選択:いいえの場合

「いいえ」にすると、下記のようにユーザー側では言語が固定され、変更できなくなります。

例4)「ユーザアクティビティ」の追跡

移行前:オンプレミスでは、ユーザーが自分の利用履歴を追跡するかどうかを個別に選べていたケース。
オンプレミス環境の設定画面です。「ユーザアクティビティ」から、利用履歴を追跡するかどうかを選択できます。

移行後:SAP BTP Build Work Zone側でも、サイト設定の「頻度の高い最近のアクティビティ」を「はい」にすることで、オンプレミス環境と同じくユーザーが自分の設定から追跡の有無を個別に選択できます。また、「いいえ」にすることで履歴が表示されなくなります。

頻度の高い最近のアクティビティ:はいの場合

「はい」にすると、下記のようにユーザー側で追跡の有無を選択できます。

頻度の高い最近のアクティビティ:いいえの場合

「いいえ」にすると、下記のようにユーザー側の設定から「ユーザアクティビティ」の項目自体がなくなります。

さいごに

本記事では、S/4HANAオンプレミス環境からSAP BTP Build Work Zoneへの移行プロジェクトにおける、Fiori個別設定の取り扱いについて、実案件での調査結果を交えて解説しました。

調査を通して確認できた通り、アーキテクチャや管理メカニズムの違いから、ユーザのパーソナライズデータをオンプレミス環境からSAP BTP Build Work Zone環境へそのまま引き継ぐことは不可能です。
ただ、調べていくうちに分かったのは、「引き継げない」ことと「同じ運用ができない」ことは別の話だということです。表示テーマ・ホームページ・言語・アプリの追跡の設定のように、BTP側の設定を選ぶだけで、オンプレミスと同じように「ユーザー自身が選ぶ」状態を作れる項目があります。一方で、管理者側で決めるしかない項目や、そもそも設定できない項目もあります。

つまり移行後の設計で決めるべきなのは、「どの項目をユーザーに選ばせ、どの項目を管理者側で揃えるか」という線引きです。ここを先に決めておくことで、移行後の混乱を防げます。

SAP BTP Build Work Zoneの移行・環境構築時における仕様ギャップの把握や、新環境におけるFioriラウンチパッドの運用ルールを設計する際、本記事が同じ課題を持つ方々の一助となれば幸いです。

今後も、SAPに関する技術記事を発信していきます。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。



投稿者プロフィール

安川 翔
安川 翔
2024年より新卒入社
Vue.jsやJava、 AWSを使用したWebアプリ開発に取り組んでいます。
開発業務を通じて、得た知見を記事として共有していきたいと思います。
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