
はじめに
こんにちは。今回は、先日参加してきた「Think Event Driven(TED)ワークショップ」の体験レポートをお届けします。
参加の背景
最近、システム設計の文脈で「イベントドリブン」や「EDA」というキーワードを耳にする機会が増えました。私は現在コンサルタントの立場ではなく、今のところ直近の業務でEDAをすぐに導入・提案する予定はありません。しかし、技術トレンドとしてのEDAが「従来のアーキテクチャとどう違うのか」「具体的にどう設計していくものなのか」を体系的にインプットしておきたいと考え、学習目的で今回のワークショップに参加しました。
ワークショップの開催趣旨と全体像
本ワークショップは、単なるツールの機能説明ではなく、EDAとAdvanced Event Mesh(AEM)の基礎を知り、それらが実際のビジネスで「どのように役立つのか」を体感してもらうことを目的として開催されました。
非常に面白かったのは、技術的な「How(どう実装するか)」から入るのではなく、ビジネスユーザーを巻き込むための「Why(なぜイベントドリブンで考えるのか)」という視点からスタートした点です。
ワークショップの概要
本ワークショップは、EDAの基礎からデモ体験まで、以下の4つのステップで構成されていました。
- EDA入門:イベントドリブンアーキテクチャの基礎概念を学ぶ
- ユースケースの理解と優先順位付け:インパクトと難易度でユースケースの優先順位をつける
- ユースケースの価値分析:選定したユースケースのバリューストリーム分析を行う
- Advanced Event Mesh(AEM)のデモ:実際の稼働ユースケースをデモで体感する
この記事では、それぞれのステップで学んだことや、設計における重要な気づきを順番に振り返っていきたいと思います。EDAの概念を知りたい方や、これから設計を学ぼうとしている方の参考になれば幸いです。
なぜイベントドリブンが求められるのか
そもそもEDA(イベントドリブンアーキテクチャ)とは?
EDAは Event-Driven Architecture(イベント駆動型アーキテクチャ) の略称です。 一言で言えば、「システム内で何らかの出来事(イベント)が発生したことをきっかけ(トリガー)に、後続の処理を動かす設計パターン」を指します。ワークショップの最初のステップでは、EDAの基礎概念について学びました。
噛み砕いて理解した「AI時代の神経系」と「疎結合の価値」
基礎を学ぶ中で、特に腹落ちしたのが「AIとの関係性」と「SNSを通じた連携の例え」でした。
昨今注目されるAIを「頭脳」とするなら、EDAは体中に張り巡らされた「神経系」にあたります。どれだけ優秀な頭脳があっても、現場の状況を瞬時に察知して手足(各システム)へ伝える神経系がなければ、ビジネスの現場で素早くアクションを起こすことはできません。AI活用の前提として、システム全体をリアルタイムに繋ぐEDAが不可欠であるという点が非常にクリアになりました。
また、従来のシステム連携とEDAの違いも、日常のコミュニケーションに置き換えることでスッと理解できました。従来の連携は「写真を一人ひとりに個別メッセージで送る」ようなもので、相手が増えるほど接続が複雑化し、いわゆるスパゲッティ状態に陥ります。一方、EDAは「Instagramに写真を投稿(Publish)する」感覚に近いです。発信者は一度投稿するだけでよく、見たい人(システム)がそれぞれ購読(Subscribe)して受け取ります。システム同士がお互いを深く知らなくても連携できる「疎結合」のメリットを、非常に直感的に納得することができました。
ユースケースをもとにした具体例の理解
概要
EDAの基礎概念を押さえた後は、グローバル企業の多様な事例をもとに、EDAが実際のビジネス課題をどう解決しているのかを読み解き、優先順位を議論するワークに進みました。
「EDAってこんなことまでできるんだ」という驚き
実際のユースケースに触れてまず感じたのは、EDAの適用領域の広さに対する驚きでした。「EDAってこんなことまでできるのか!」と、一気に解像度が上がりました。
- 物流・インフラのリアルタイム可視化: 多数の船舶やコンテナ、街中を走る車両の状況をミリ秒単位で把握・制御する
- 設備の予知保全: 世界中のエレベーターなどの稼働状況を常時監視し、故障する前に対処する
- リテールや金融のピーク対応: 突発的な注文の急増をいなし、注文処理を数時間単位から数分未満へと短縮する
これまで「メッセージ連携の一種」くらいに捉えていたものが、業務のボトルネック解消や顧客体験の向上に直結する強力な仕組みであることが実感できました。
また、ワークショップの参加者全員で事例の優先順位(難易度とビジネスインパクト)を評価した際、人によってスコアに大きなバラつきが出たことも印象的な気づきでした。同じ事例を見ても、立場や視点によって「何が価値か」「何が難しいか」の捉え方は異なります。技術的な優劣以上に、「ステークホルダー間で何をもって価値(Why)とするかの目線合わせ」こそが、EDA導入における最大のポイントなのだと痛感しました。
バリューストリーム分析:イベントは「裏側のデータ」ではなく「表の業務」にある
概要
続くステップでは、選定したシナリオ(販売注文処理)を題材に、模造紙と付箋を使って業務の流れを可視化する「バリューストリーム分析」を行いました。

▲実際に作成した模造紙。上から「EVENTS(出来事)」「PROCESS / USER(業務・行動)」「SYSTEMS(システム)」の3層で整理
ワークではシステム構成から考えるのではなく、まず「現場で誰が何をしているか(黄色の付箋:業務フロー)」を時系列で洗い出し、それを下支えする「システム(ピンクの付箋)」、そして次のアクションへ繋ぐトリガーとなる「出来事(青の付箋:イベント)」へと分解していきました。
自身の気づき・考察
このワークを通じて、私の中で大きなパラダイムシフトが起きました。「EDAで扱うべきイベントとは、DBの更新フラグのようなシステム裏側の技術データではなく、業務の現場で起きている具体的な出来事そのものである」という点です。
例えば、「注文ボタンが押されたから基幹システムのAPIを叩く」と考えるのはシステム都合の視点です。そうではなく、「売上が確定した」「出荷準備が整った」というビジネス上の出来事を起点にし、だからこそ後続の配送システムや在庫管理システムが「その出来事を知る必要がある」と捉え直します。
模造紙に並んだ青い付箋(イベント)は、まさに「システムの神経系をどこに通すべきか」を示す設計図そのものでした。業務フロー起点で出来事を整理することで、各システムがお互いを過剰に意識せず自律的に動くイメージが掴め、アーキテクチャ設計の第一歩は技術論ではなく「現場の業務理解」にあるのだと実感しました。
デモ体験を通じた気づき(Advanced Event Mesh)
概要
可視化したビジネスイベントが実際にシステム間でどう流通するのか、SAP Integration Suite, Advanced Event Mesh(AEM)の稼働デモと解説を通じて理解を深めました。
自身の気づき・考察
デモを見て実感したのは、EDAがもたらす「システムの堅牢さ」と「身軽さ」です。
特に印象に残ったのは、急激なアクセス集中をメッセージキューで受け止める「ショックアブソーバー(緩衝材)」としての役割です。セール時などに注文が殺到しても、AEMが負荷を一時的に吸収してくれるため、バックエンドの基幹システムがダウンするのを防ぎつつ、フロント側は快適に応答を返せます。
また、中央の司令塔が一つひとつ指示を出すのではなく、各システムが必要なイベントだけを拾って自律的に動く「コレオグラフィー(協働)」の動きを目の当たりにし、将来の機能追加やシステム入れ替えが格段にやりやすくなる理由がよく分かりました。
ワークショップを終えて
今回のワークショップを通じて、EDAとは単なる「非同期通信を実現するITツール」ではなく、「ビジネスの出来事(イベント)を起点に、システムと業務プロセスを再構築するためのアーキテクチャ思想」であることがよく分かりました。
- 技術の前にWhyを揃える: 実装のしやすさだけでなく、ステークホルダー間でビジネスインパクトの共通認識を持つこと。
- 業務現場の出来事を起点にする: システム都合のフラグではなく、業務フロー上のイベントを設計の軸に据えること。
直近で自分の業務にすぐ導入する予定はありませんが、今後AIの活用やシステムの刷新を考える上で、この「イベントドリブン思考」は間違いなく強力な武器になると感じています。
システムの密結合やバッチ処理の遅延に課題を感じている方は、ツールの検討に入る前に、まずは自社の業務フローの中にどんな「出来事」が起きているのか、付箋を並べて洗い出すところから始めてみてはいかがでしょうか。
投稿者プロフィール

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2022年度新卒入社。以来、SAP BTP(Business Technology Platform) 上でのWEBアプリケーション開発に携わっています。
主にフロントエンドでは JavaScript や SAP UI5 を用いてユーザーインターフェースの構築を行い、バックエンドでは Java を活用した処理開発を担当しています。また、CAP (Cloud Application Programming) モデルを用いた開発にも従事しており、SAP BTPの持つ多様なサービスを組み合わせながら、お客様のビジネスニーズに応える使いやすく効率的なアプリケーションの実現を目指しています。

